【イベントレポート】Mentor For ダイバーシティカンファレンス 2024

【イベントレポート】Mentor For ダイバーシティカンファレンス 2024

 

 

2024年11月26日、DE&Iや女性活躍に取り組む企業を対象とした「Mentor For ダイバーシティカンファレンス 2024」を開催しました。

 

オープニングの基調講演は、Forbes JAPANで執行役員 Web編集長を務める谷本有香様。その後、Mentor For導入企業3社によるパネルディスカッション、参加者の皆様が課題やケーススタディを共有する交流会と続きました。

本カンファレンスで語られた、第1部「基調講演」と第2部「パネルディスカッション」の内容をレポート形式でお届けします。

 

基調講演(谷本有香 様)

プロフィール

谷本 有香
Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長
証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター及び同社初の女性コメンテーターとして従事。4000人を超える世界のVIPに対するインタビュー実績があり、国内においては多数の報道番組に出演。経済系シンポジウムのモデレーター、政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員、企業役員・アドバイザーとしても活動している。2016年2月よりForbes JAPANに参画。2022年1月1日より現職。

第1部ではForbes JAPAN Web編集長の谷本様が登壇。『4000人のトップリーダーから見た DE&I思考~ダイバーシティ新潮流~』をテーマにお話をいただきました。

谷本様は証券会社のほか、金融・経済情報を配信するBloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、日経CNBCキャスター・同社初の女性コメンテーターとして世界のVIPへインタビューをし続けてきました。今回は初めに、「EY World Entrepreneur Of The Year™」での、時代の写し鏡ともいえる興味深い体験が紹介されました。

谷本様 今から10年ほど前、「EY World Entrepreneur Of The Year™」の厳しい審査を勝ち抜いた起業家たちは、一様に「私は社会起業家である」と口にしていました。それから数年して世の中にSDGsやESG経営という言葉があふれ、社会起業家であることが当たり前になったのを見て、私は世界のリーダーには時代の流れを捉える力があることを実感しました。

 

そして今、起業家たちが語り出しているのは、世界は1人のリーダーによって牽引されるものではない、自分はチームの役割を担う一員でしかないということ。気候変動や戦争といった大きな問題は、手を携えてチームで解決すべきという認識が当たり前になっているのです。

ここまでの話を踏まえ、Forbes JAPANでは「時代の写し鏡であるリーダーの明日に資する情報」「3年後の未来に向けてリーダーたちが示す方向性」を伝え、社会や経済に寄与する情報を発信するメディアであるとの紹介がありました。

DE&Iに関わるForbes JAPANの取り組み例として挙げたのは、7社の名だたる企業のトップが、パートナーや子どもと「#もっと一緒にいたかった」という後悔に対して誠実に向き合う、「男性育休100%」をテーマにしたプロジェクトです。2019年に実施し、次世代リーダーの姿が世の中を動かしました。

2023年には、有価証券報告書における人的資本開示の義務化が始まっていち早く、どのような報告書があるのか、良い開示のあり方を分析した記事を発信。今回の講演の中でも、各社の好事例を示していただきました。

併せて今回、DE&Iや女性活躍のテーマと深く結びつく、自身の “興味深い” 体験についても語ってくれました。そのうちの1つが「肩書き」に関するものでした。

これまでメディアへの出演や書籍の執筆、企業役員やアカデミックな場でのアドバイザー、政府や行政との取り組みなど数多くの実績を重ねてきた谷本様は、Forbes JAPANのWeb編集長に就任した際、夫から家事を手伝う旨の提案をされたというのです。

これまでの仕事と中身に大差はないはずが、編集長という肩書きを持った瞬間に周囲の自分を見る目が変わった瞬間でした。

谷本様 日本の場合、社会に向けたわかりやすい記号があると男性は動くのかもしれないと、夫の反応を見て感じました。このような状況は変わっていくことが望ましいですが、女性が難しい立場にいるのであれば1つの手段として有効だと思います。

一方、海外では名刺や肩書きは通用しません。その代わりに大切なのが「態度」です。過度に謙虚な姿勢を見せるのではなく、相手が世界的な企業のリーダーであろうとアメリカの大統領であろうと、私はあなたと対等な立場にあると意思表示をする。これができるか否かで、インタビューの質が大きく変わることを何度も経験してきました。自分の態度がどれだけ相手に影響しているのかを知ることは、DE&Iにおいても大変重要なことだと考えます。

関連して、データを用いることもまた、女性活躍を推進する上での武器になるというお話もありました。もしも女性が不利な立場にあり、どんな提案をしようとも受け入れてもらえないと感じるのであれば、数字やデータによる根拠を示すことは有効だというのです。

加えて、テクノロジーの活用にも同様の効果があるとしました。例に挙げたのは、「Forbes JAPAN」の読者層の変化についてです。これまで、どう働きかけても読者の男女比は8:2であったにもかかわらず、コロナ禍でリモートワークが普及したことで、自然と読者比率は5:5に変化したというのです。在宅という環境下では仕事と家事が男性にも求められるようになり、立場が平等になったことが関係しているのではないかと見解を示しました。

似たような考え方で今注目していることの1つに「バーチャル空間」があるといいます。自身をアバターに置き換え、立場も年齢も性別も自由な環境で議論を交わす。そうすることで、リアルの場で交わされる意見よりも多様性にあふれたアイデアが得られるのではと示唆しました。

谷本様 可能性を考えれば、入社したばかりの社員が誰よりも優れた意見を出すことも十分にありえます。忖度なしのバーチャル空間であれば、仮に自分が不利な立場にあったとしても、アバターの力を借りることで解決できるかもしれません。

これまでの成功体験では正解が導けない時代です。そうであるならば、様々なダイバーシティを企業内で確保していく必要があるので、組織の多様性の確保についてより気を配らなければいけないと考えます。今までのような「女性活躍」のやり方、DE&Iのやり方だけでは十分な変化をもたらすことが難しくなっている。だからこそ、企業側がやり方を変えていく必要があるのではないでしょうか。肩書きをはじめとした社会に向けた記号、数字やデータ、テクノロジーを活用した取り組みが、今後のDE&I推進のきっかけになることを願っています。

 

企業担当者によるパネルディスカッション

第2部では、Mentor For導入企業の3社によるパネルディスカッションを実施しました。テーマは『企業担当者が語る、DE&I・女性活躍の現在地と未来』について。Mentor For 取締役 宮本のファシリテーションにより、約60分のディスカッションがされました。

各社の女性活躍・DE&Iにおける取り組み、課題感や今後の活動についてリアルに話し合われた内容をレポートします。

パネリストのご紹介

ソフトバンク株式会社 人事本部 DE&I推進課 課長
木戸あかり(きど・あかり)様

ヤマハ株式会社 人事部 人材・組織開発グループ
安永晶子(やすなが・あきこ)様

富士通株式会社 Employee Success本部・Employee Relations 統括部 シニアディレクター
島田歌(しまだ・うた)様

 

まずはソフトバンク株式会社の木戸様より、現在の取り組みについて紹介がありました。

自社の女性管理職比率の改善を目的に、2017年にDE&I推進課が設置されたところから本格的な活動がスタート。2020年に女性活躍推進法が改正されたことを受け、CEOによるメッセージのもと女性活躍推進委員会が設置されました。

現在は課題把握や現状改善のためのアクションを、一つひとつ検討しながら施策を進めている状況にあるのだといいます。

木戸様 社内でアンケート調査をしたところ、男女差が表れたのは「自信」に対する項目でした。短時間勤務または時間外労働が難しい状況でも役割をまっとうできるのであれば管理職に挑戦したいというデータが得られました。女性を対象としたキャリアワークショップ等でキャリアに関して考えるきっかけづくりを行ったり、メンタープログラム等を実施したりすることで、実際に管理職に就く女性社員の数が増えるようになりました。

一方、等級に関する評価に関しては一定の課題が確認されており、昇格や昇給につながるようなチャレンジングな仕事に対するアサイン状況などを含め、今は定量的なデータを集め現状把握に努めている状況だと話しました。

続いて安永様より、ヤマハ株式会社のDE&I推進についての現状が語られました。

女性活躍推進の歴史を振り返ると、2004年に休暇や短時間勤務などを含む両立支援制度が開始され、社員の働きやすい環境がこの20年で整備されました。

また、2021年には女性リーダーの育成を進めるべく、社長直下の諮問機関である専任組織「女性活躍推進部会」が設置されました。組織長へのヒアリングやワークショップ、メンタリングやキャリアデザイン研修などを推進していく中、もっとも大切にしていることは納得感の醸成だといいます。

安永様 女性従業員に向けたメンタリングを導入した際、社内からは「なぜ女性だけが対象なのか?」という声があがりました。また、構造的な男女格差を解消する目的で昇格・登用に関する施策を提示したときも、「男性従業員にとってもメリットはあるのだろうか」との意見があり、議論を重ねる必要がありました。こうした意見に寄り添いながら、多様な価値観が共存する中で納得感を得ることを心がけています。

富士通株式会社の島田様からは「もしも富士通の取り組みが先進的なのだとしたら」と前置きがあったのち、人的資本経営や働き方改革、ジョブ型雇用、ポスティング制度(社内公募制度)などを実現してきたことにその理由があるのではと説明しました。

そんな富士通では現在、全社員のウェルビーイングを向上させた上で、企業としての価値はどう高めていくべきなのかを重要テーマとして掲げています。女性がいること・女性が活躍することの先に何があるのか。女性幹部比率KPIだけがクローズアップされている状態から、その先の目指したい姿=”本質”についての議論と、データを集めるための調査を開始しました。

2023年11月〜12月、国内富士通グループ社員にウェルビーイングサーベイを実施。ウェルビーイングの影響因子を可視化することに成功しました。

島田様 サーベイの結果で興味深かったのが、男性は昇進をするとウェルビーイング実感値が上がるものの、女性の場合は上がらないということでした。そのため富士通では今、女性幹部比率で多様性を測ってよいのだろうかという問いと向き合い、議論を重ねています。

そしてもう1つ、女性活躍推進に取り組む中で、女性の意識改革に焦点が当たることにも疑問があると加えました。極端に言えば、女性に幹部社員を目指してほしいから自信をつけさせよう、というストーリーラインはもう長続きしないのではという指摘です。

一人ひとりを人間的に扱える社会にしたい。そんな島田様の願いがメッセージとして会場に響きました。

以上で「Mentor For ダイバーシティカンファレンス 2024」の講演・パネルディスカッションが終了し、参加者交流会の時間へ。

会場ではDE&I・女性活躍推進に取り組む各企業の担当者同士があいさつを交わし、ざっくばらんに意見交換をする姿が多く見られました。

 

カンファレンスの最後には、Mentor For代表 池原からご挨拶いたしました。

池原 暗黙知だったキャリアや知見を可視化してシェアし、次世代につなぐ「メンター制度」「メンタリング」という取り組みは、結果的に多様な個の支援を行うことができ、DE&Iの推進に寄与できるものと考えています。

一方、ボトムアップだけでは足りず、経営トップからのアプローチも重要です。男女をはじめとした異なる属性同士の分断をつくらないように一緒に対話し、ともに良くなっていくよう取り組みたいです。社内にもロールモデルがいることがわかり、社内でメンターシップを発揮する人が増えれば、社内の風土を変えていくムーブメントを広げていけるのではと思います。

「社外の違う立場の方々と、安心安全な対話をして知見を得て帰る」今日のこのダイバーシティカンファレンスも一種のメンタリングだと考えています。DE&Iという難しい課題に対し、一緒になっていい未来をつくっていければ幸いです。

改めて日本のDE&I・女性活躍の最前線で課題と向き合い続ける担当者の方々と触れることで、日本の未来を共に作っているのだという実感を得られた1日となりました。

これからもMentor Forは、業界・業種の垣根を越えた取り組みで、「メンターとの出会いを通じて、人と組織の可能性を最大化する」というビジョン実現に向けて進み続けます。

このイベントレポートを通じて、読者である皆様のDE&I推進・女性活躍推進におけるヒントになれば幸いです。ここまでご覧いただきありがとうございました。

 

<集合写真>