【イベントレポート】Mentor For ダイバーシティカンファレンス 2025
2025年12月5日、東京都内で「Mentor For ダイバーシティカンファレンス」が開催されました。Mentor Forは、多くの組織におけるDE&Iや女性管理職育成等の支援を行っています。
様々な組織の中で、課題と向き合い、変革を進める各企業のご担当者様にとって、新たな学びや気づき、交流の場になるよう本カンファレンスを2022年より継続しています。
当日の様子をレポートにまとめましたので、ぜひご覧ください。


当日は、株式会社ポーラの代表取締役社長を務め、現在は一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの理事として活躍する及川美紀様の基調講演に始まり、休憩を挟みながら、Mentor For導入企業3社のご担当者によるパネルディスカッション、参加者の皆様が課題やケーススタディを共有する交流会を実施しました。
基調講演(及川美紀 様)

プロフィール
及川 美紀
91年株式会社ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。09年商品企画部長。12年に執行役員、14年に取締役就任。商品企画、マーケティング、営業などを経験し、20年より24年同社代表取締役社長・24年末退任。21年よりダイアローグ・ジャパン・ソサエティの理事に就任。25年より一般社団法人Toget-HERの代表理事、一般社団法人MASHINGUP理事としてダイバーシティインクルージョン、女性リーダーの育成をテーマとして活動。マツダ株式会社、三井住友DSアセットマネジメント株式会社社外取締役、千里金蘭大学客員教授、文部科学省委員など産官学様々な団体で過去の経験を活かした活動に従事。
「私」を取り戻すことから、企業の可能性は拓かれる
「企業の可能性を拓くDEI&“I”」。基調講演の冒頭、及川様はこのタイトルに込めた強い想いを語り始めました。「DE&I」ではなく、あえて「DEI&I」と表記した理由。そこには自身の経験から紡がれた、これからの未来をつくる人たちへ想いがあったのです。
及川様
「この“I”は、インクルージョンのIであると同時に、“私”のIでもあります。企業の中にいると、役割や立場が前に出て、“私”を失ってしまう人が本当に多いのです。
私は新卒で入社したポーラで33年間勤め上げた『終身雇用系サラリーマン』でした。昭和の時代によく言われた『私を殺して会社に奉公する』働き方を、身をもって経験してきたのです。でも、これからの時代はそれでは続かない。だからこそ、“私”が生きるDE&Iが必要だと思っています」
及川様がポーラの代表取締役社長に就任したのは2020年。直後にコロナ禍が始まり、対面販売やエステを主軸とする同社の事業は大きな打撃を受けました。
エステをしてはいけない、対面販売もできない。同社では、エステを運営するのは全て個人事業主のオーナー。収入がゼロになる可能性もある。危機を乗り越えようと本社も様々な施策に取り組みましたが、閉店を決断するオーナーは増えていったそうです。
そうした中、組織には明確な二極化が起きたといいます。
及川様
「本社から見て“強い組織”だと思っていた、カリスマリーダーが率いるチームが、実はガラガラと崩れていった。一方で、大きくは目立たないけれど、楽しそうにやっていたチームが生き残り、むしろ成果を出していたのです。私はこの組織づくりの違いを、【レンガ型】と【石垣型】と例えました。
レンガ型は、リーダーが理想像を示し、それに近い人物をつくっていく組織です。再現性が高いように見えるため、実は私もこのリーダーによる組織がとても強いと思っていました。
一方で石垣型は、文字通り大きさも形も違う石を組み合わせたような組織。周囲からすればまとまりがないように見えるけれど、リーダーが個性を理解して繋ぎ止め、一人ひとりが考え、支え合っている。
非常時に強かったのは圧倒的に石垣型で、レンガ型は指示を出す人がいなくなると動けなくなる組織になっていたのです」

企業価値を高めるDE&Iと、人の力を引き出す組織づくり
DE&Iについて話すとき、「成果が出にくくなるのでは」「厳しさが失われるのでは」といった声が上がることもあります。しかし及川様は、そうした捉え方をきっぱりと否定します。
及川様
「インクルーシブな組織は、決してぬるくありません。最終的には“プラチナ企業”を目指さないとインクルーシブにした意味がないからです。DE&Iは“全員が8割の力で働けばいい”ものではなく、“力を発揮できる環境を整えるから、今の自分のフルスロットルを出してほしい”という考え方です。つまり、全ての人の力の発揮を期待しています。
長時間労働ができる一部の人だけに依存する組織は、もはや持続可能ではありません。人生が長くなれば、誰でも育児や介護、健康の問題に直面します。突然“頑張れない側”になることもある。そのときに戦力外にしない仕組みを持っているかどうか。その根底には、“全ての人には成長する可能性がある”という前提に立ち、社員をリスペクトする、社員の人権を理解することが最重要事項です。ノンハラスメント、ワークライフバランス、様々なバイアスの排除、違いを認め合い、違いから生まれる新しい視点を活かすこと。
ダイバーシティは日本ではよく女性活躍と捉えられますがそうではなく、全員活躍なのです。ただそこから零れてしまう人たちに女性が多いため、そう思われている。女性活躍はマイルストーンで、ダイバーシティのゴールは全員活躍なのです」
そうした全員活躍の土台となるのが心理的安全性だと及川様は語ります。
及川様
「ここで意見を言っても嫌われないか、評価が下がらないか。そうした不安があると、人は沈黙します。失敗を共有できる組織ほど、結果的に強くなる。『失敗しました』と言っても、『よく言ってくれたね。そこから何を学んだ?』と返ってくるチームは、学習スピードが圧倒的に速い。
かつてポーラで外部のコンピテンシー調査を実施したところ、“内向きな組織人”と指摘されました。私はとてもショックでした。けれどもあらためて耳を傾けると『常識で考えると』『部長が賛成するならいいけど』といった言葉がよく使われることに気づいたのです。それが深く思考する機会を奪っていた。結果的に“内向きな組織”をつくったのは経営の責任ではないかとの考えに至りました」
自身の体験を振り返り、組織を変えるために重要なのは、「人を変えようとすることではなく、環境を変えること」だと及川様は強調します。
及川様
「自分の考えが言える、自分の視点で物が見える、相手の意見を尊重できる、バックグラウンドの違いが活かせる、組織におけるダイバーシティを実現する上で、まず必要なのは情報です。情報を渡さずに意見を求めるのは、リスペクトではありません。
その中で人事部は、制度運用の担当ではなく、組織風土と人材の未来をつくる中核的存在になります。社長時代、一番ディスカッションしたのが人事でした。 “全ての人が力を発揮することを期待している”、それを制度や施策で表明して、リスキリングプログラムに取り組んでもらい、『will』のある『I(私)』を育てていく。そうして組織風土を変えていくことが、企業価値を高めるDE&Iの第一歩だからです。
誰かに頼っていい、意見を言っていい。その経験の積み重ねが、DE&Iを“制度”から“文化”に変えていくのだと思います」

企業担当者によるパネルディスカッション

パネリストのご紹介
豊田通商株式会社 人事部(豊通ヒューマンリソース株式会社)竹腰智恵 様
SOMPOホールディングス株式会社 人事部 課長 川西文恵 様
株式会社第四北越銀行 人事部 上席調査役 髙橋瑞穂 様
第2部は、Mentor Forのプログラムを導入・実践している企業の人事担当者をお招きし、「企業担当者が語る、メンターシップの現在地と未来」をテーマに、60分のディスカッションをおこないました。
ファシリテーターはMentor For COOの宮本が務め、各社のDE&Iの取り組みやメンタープログラムの狙い、そして今後の展望について、実践に基づく率直な議論が交わされました。
最初は、各社の取り組み状況について説明をいただきました。
竹腰様
「豊田通商には、合併・統合を繰り返してきた歴史があります。その中で、お互いの良いところを強みとして残し、それらを掛け合わせて新たな価値・強みにつなげていくことを大切にしてきました。経営メッセージの一つである『人と組織』を支えるのがDE&Iであり、まさに弊社の競争力の源泉だと感じています。
生産性を高めながら一人ひとりがいきいき働ける環境をどうつくるかを組織単位で考えるなど、こうした観点で組織開発に取り組んできたことで、“自律的に考えて行動する文化”が育ってきていると感じます。
2019年からは、外部の組織開発のプロと連携した「Evolution HUB」を通じ、経営層と社員それぞれと対話を設け、硬くなりがちな考えをほぐす働きかけも行っています。2024年には組織開発を伴走・支援する組織として、社内に組織開発グループを発足し、人と組織の可能性を広げるために取り組んでいるところです。」

川西様
「SOMPOグループでは、2024年度にパーパスの再言語化をはじめ、グループ企業理念体系を再構築しました。グループ全ての役員、社員が大切にしたい価値観の根幹をなすものとして「誠実」「自律」「多様性」を掲げています。この「SOMPO の価値観」を体現し、国籍やジェンダーといった表層的なダイバーシティに加え、価値観やバックグラウンドといった深層的なダイバーシティを歓迎し、強みに変えていく。これが真のDEI の実践だと考えています。
当社では2021年からパーパス経営をスタートし、SOMPOのパーパスと自分の想いや志(MYパーパス)の重なりを見つけ、パーパス実現に向けた原動力とする取組みを行ってきました。また、ジョブ型人事制度やキャリア採用の強化を通じ、多様な社員がそれぞれの強みを活かして活躍できる会社づくりを進めています。」
髙橋様
「第四北越銀行では2021年の合併に際し、人事制度のみならず、女性活躍推進や両立支援といった組織体制・風土醸成の取り組みをゼロから再構築しました。「変化に果敢に挑戦し、新たな価値を創造する」という経営理念のもと、ダイバーシティに関するKPIを策定し、多角的な施策を展開しています。
特徴的な施策として、女性の取締役や管理職を育成する2つのプログラム(『女性取締役育成プログラム』『女性活躍推進プログラム』)を運用しています。個々のスキル習得状況やキャリアをきめ細かく管理することで、数値目標の達成を目指すものです。合併から5年が経過し、実際に複数名の女性役員が誕生しており、後進にとっての確かなロールモデルが形成されつつあります。」

社外/社内メンタープログラムの目的や成果
続いては、各社のメンタープログラム導入の目的や成果について、お話しいただきました。
竹腰様
「2015年から女性メンタリングプログラムを導入し、現在は社内と社外の両軸で運用しています。目的は、女性リーダー候補の視野拡大やネットワーク形成を促し、挑戦への心理的ハードルを下げることです。理想となるリーダー像は社内外に存在します。多様な企業の方々との対話を通して、自分のキャリアの解像度が高まるなど、社内だけでは得られない気づきを増やしたい思いもあり、Mentor Forさんにもご協力いただいています。
さらに、状況に応じたコミュニケーションスタイルを身につけられるよう、リーダーの学びを深める『Hybrid Communication Program』にも取り組んでいます。これは、社内メンタリングにおけるコミュニケーションの質向上にも関わるもので、メンターとメンティー双方にとって、より多くの学びや気づきが生まれる関係構築につながることを期待しています。」
川西様
「2023年に社内メンターと社外メンターの併用プログラムを開始しました。当時、当社はグループのなかでも女性活躍に向けた取組みがあまり進んでおらず、女性リーダー育成にも課題があったことから、メンタープログラムを導入しました。
当初、課題は女性社員のマインド面にあるとの仮説がありましたが、実際にはスキルを含め、経験の差から生まれる課題も大きいことがわかりました。結果として、職制の部長が本人としっかり対話をしながら、必要に応じてタフアサインメント等を含む経験値の拡大や能力開発に関わっていけるよう、部長に社内メンターを担ってもらうことにしました。
とはいえマインド面も非常に重要です。当社で管理職になるためには、ジョブ型人事制度において、自らそのポジションに応募する形式を採っているため、入り口から心理的なハードルがあります。その意味でも、社内メンター・社外メンター双方からの精神支援、内省支援は大きいと思っています。」

髙橋様
「『女性取締役育成プログラム』では、監督職から上位管理職までを3段階に分け、それぞれの階層に適したカリキュラムを構成しています。なかでも最上位グループでは「アウトプットによる育成」を重視し、メンタリングを主軸に据えました。
メンター制度を機能させるには、メンター自身が高度な知識やスキルを備えている必要があります。そこで、上位管理職層にはMentor For社の公式メンターによる外部メンタリングを導入しました。メンティーとしての経験を積んだ者が、次はメンターとして若手を指導する「循環型」の仕組みづくりを推進しています。加えて、地方銀行他行の役員とのメンタリングなど、より広い視点を得るためのラインナップ拡大にも取り組んでいます。」
今後取り組んでいきたいこと
最後に、組織開発において、今後実施してみたいこと、考えていることを教えていただきました。
竹腰様
「わたしたちが大切にしている“人と組織”の可能性をどのように広げていくかが挑戦領域だと考えています。経営メッセージにある『豊田通商のDNAを覚醒させる』を実現するために、どういう仕掛けや支援ができるのか、引き続き探求していきたいと思います。
一方で、組織開発というと難しく聞こえがちですが、実際には、身近に起こる出来事に対して「自分がどう関わるか」という一歩から始めることだと考えています。そうした“身近な組織開発”への理解を深めていただけるよう、体験ワークなどの社内イベントを実施しています。これらの取り組みを継続することで、自分ごととして組織づくりに関わる仲間を増やしていきたいですね。」
川西様
「現在実施しているメンタープログラムは、対象を管理職に就く前の女性に絞っていますが、性別を問わず、管理職を誕生させて終わりではなく、そこからがスタートです。近年は、働き方改革やハラスメント、メンタルヘルスの予防など、従来の役割に加え、管理職の負担は一層増大しています。そうした管理職を支援するため、社外コーチングも新たに導入しました。
また、当社はキャリア自律を後押しし、専門性強化やスペシャリスト育成に舵をきる中で、これまでジェネラリストとして育てられてきた管理職の中には、どうメンバーを支援していいのか戸惑いを感じる人もいます。ますます役割が複雑化する管理職が、もっと楽しく、いきいき活躍することが、未来の管理職を育てることにもつながると考えています。」
髙橋様
「個人的に考えていることにはなりますが、今後の展望として、数値目標の達成だけでなく、その先にある『質の向上』へのシフトが重要だと考えています。具体的には、適材適所の配置や希望する業務へのアサインを通じ、エンゲージメントを高めていくフェーズです。あわせて、内面的な要素も含めたパフォーマンス分析の手法についても現在模索しています。
また、地方特有の課題である『若年女性の流出』に対し、地域単位のワーキンググループ構築を検討しています。こうした取り組みを通じ、一度県外へ出た学生たちが『新潟に戻って働きたい』と思えるようなきっかけを創出していきたいと考えています。」

パネリスト3名によるパネルディスカッションのあとは、質疑応答の時間が設けられました。参加者の方々からは具体的な課題が寄せられ、パネリストは実践に基づく回答を共有する時間に。
各社の事例は、DE&Iを一過性の施策ではなく、組織に根づく文化へと育てていくための具体的なヒントに満ちていました。

ここで「Mentor For ダイバーシティカンファレンス2025」の基調講演、パネルディスカッションが終了し、参加者による交流会がスタート。
DE&Iや女性活躍に取り組む各社の担当者の皆さんが、テーブルごとに簡単な自己紹介をおこない、途中でメンバーを入れ替えながら交流を深めました。
Mentor Forの池原、宮本をはじめ、社員も交じり、さまざまな意見交換がおこなわれました。

そして、カンファレンスの締めくくりとして、池原から皆さんにご挨拶いたしました。

池原
人や組織を良くしたいと、日々葛藤しながらDE&I推進に取り組んでいらっしゃる皆さんと、こうして一堂にお会いできたことをとても心強く感じています。Mentor Forは、メンター屋さんや研修屋さんではなく、皆さんのように現場で踏ん張る方々の「パートナー」でありたいと、あらためて思いました。
2018年にサービスを始めた当初と比べ、いまはジェンダーや年齢、業界を超えて、人を育て組織を豊かにすることの重要性が広く共有されるようになっています。今日ご参加いただいた皆さんは、まさに企業や社会を変えていくフロントランナーだと思います。
私たちはこれまで、社外メンタリングを中心に多くの対話の時間を積み重ねてきました。その一つひとつは、悩みや経験、意思を言葉にし、次の人へとつないでいく時間でもあります。今日得た気づきや学びを、ぜひ職場に持ち帰り、誰か一人に伝えていただけたら嬉しいです。その小さな一言が、組織を動かし、働く人をハッピーにしていく循環につながると信じています。
「社外の異なる立場の方々と、安心・安全な対話を重ねる」このダイバーシティカンファレンス自体も、一種のメンタリングの場だと考えています。DE&Iという簡単ではないテーマに対して、これからも皆さんと一緒に、より良い未来をつくっていければ幸いです。
これからもMentor Forは、業界・業種の垣根を越えた伴走を通じて、「メンターとの出会いを通じて、人と組織の可能性を最大化する」というビジョンの実現に向けて取り組んでまいります。
ここまでご参加いただき、ありがとうございました。



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