【イベントレポート】「誰もが活躍できる組織を」ヤフーが進める ジェンダー・エクイティへの包括的な取り組み
【イベントレポート】「誰もが活躍できる組織を」ヤフーが進める ジェンダー・エクイティへの包括的な取り組み
「人的資本」に対する考え方に変化が起きている昨今、ダイバーシティ&インクルージョンや女性活躍推進のための取り組みに、ますます注目が集まっています。今回は、ヤフー株式会社 人事企画部でD.E.&I.および「gender equity(男女公正)」を推進されている秋橋仁美様、山田玲恵様に取り組みの背景や、具体例、推進のポイントなどをお話いただきました。女性活躍推進に関しては企業によって課題や特徴も様々ですが、どんな組織であっても必要な取り組みや施策について沢山のヒントが散りばめられたご講演でした。
今回のレポートでは、以下の項目についてまとめていきます。
■D.E.&I.浸透のポイント
■ジェンダーエクイティへの包括的アプローチ
■D.E.&I.推進の具体的施策
■ジェンダーエクイティ推進のカギ
■社内の変化とこれからの目標
■質疑応答
■D.E.&I.浸透のポイントは社風を知ること
ヤフー株式会社は、企業ミッションを「UPDATE JAPAN―情報技術のチカラで、日本をもっと便利に」と掲げており、社員の傾向としては「何かの課題を見出しアップデートして、さらに便利にしていきたい」というマインドでの課題解決思考が強い特徴があります。
そしてその「課題解決思考が強い」思考ゆえ、日常の社内でのさまざまな議論でも、何かを考えたり捉えたりする際には、なぜそうなのか 「why」が必ず問われます。そして「why」が不明瞭なものについては、なかなか話が通らない傾向が見受けられます。つまり、社員それぞれが理解できる「Whyの説明」を明確にしなければ、伝えたいメッセージが伝わりにくい。そんな社風を念頭に、D.E.&I.やジェンダーエクイティを進めていく必要がありました。
■D.E.&I.推進の位置付けとジェンダーエクイティへの包括的アプローチ
ヤフーのD.E.&I.推進には、「ウーマンPJ」(活躍支援)と「女性の健康支援PJ」、「パパママPJ」(育児子育て両立)、「レインボーPJ」(LGBTQ等性的マイノリティ)、「ノーマライゼーションPJ(障がい)」の社員有志プロジェクトがあり、それぞれに担当役員(スポンサー役員)がついて活動しています
いわゆる女性活躍推進系のプロジェクトもありますが、並列で他の領域のプロジェクトも盛んに活動しています。 ヤフーのD.E.&I.推進は当初から、複数の領域に並列で取り組むアプローチだったのですが、そのことが、ジェンダー・エクイティ推進を展開する上でも、「女性活躍推進はいろいろ取り組んでいることのひとつです」と主張できる大きな支えになっています。
また、対外的にもヤフーのダイバーシティ&インクルージョンの基本方針を公表しており、そのキーフレーズを「多様性は可能性だ」としています。
あらゆる人に使いやすいインターネットサービスを届けるために、社員自身が多様な価値観を持つことで多様なニーズに応えるサービスを提供できる。だからD.E.&I.の推進が必要だとユーザーやビジネスパートナーのみなさんにも伝えています。
■D.E.&I.推進の具体的施策
- 有志PJの存在とサンドイッチ作戦
D.E.&I.については、組織として推進をする以前から、社員有志のコミュニティやボランティアグループが個々に社内イベントを開催しておりました。のちに各PJに役員がスポンサーとして就任する体制ができました。2021年度に推進体制をアップデートした際にエンゲージメントサーベイや全社向けの研修を担う人事企画部内に、D.E.&I.推進事務局を置くことになり、※D.E.&I.意識調査など全社横断の企画もできるようになりました。有志PJ、スポンサー役員、推進事務局のそれぞれが役割を担い、推進しています。
D.E.&I.全社調査などによって社内の現状を可視化したことに基づき、2022年度は全社に面で展開する取り組みを、役職者・メンバー層・経営層のレイヤー別に展開しました。そして、キーカテゴリーと位置付けた役職者層のD.E.&I.マネジメント実践をサポートできるよう、メンバー層・経営層の施策を組み合わせる「サンドイッチ作戦」として実施していきました。
管理職層向けには、D.E.&I.推進のキーカテゴリーとし、D.E.&I.マネジメント研修を実施しました。内容は、基礎知識をハンディにインプットし、具体例を通して実際の向き合い方を考えるといったもので、受講者アンケートからも日々のマネジメントに活用できそうだという回答を得ることができました。
メンバー層は、役職者のD.E.&I.マネジメントが機能しやすい土壌を作ることを目的とし「アンコンシャスバイアスeラーニング」を受講必須で提供しました。eラーニング一つで劇的に何かが変わるわけではないのですが、推進のための共通言語となる材料のインプットとして不可欠であると感じており、地道に継続していきたい取り組みの1つになりました。
経営層には、「女性の健康検定」全員受検などで自らの理解の向上を図ってもらうだけでなく、社員への発信や社内外のセミナーやイベントに登壇してもらうことで、経営層がD.E.&I.に本気であるという姿勢を社内外に示してもらう企画や施策に取り組んでもらいました。
これらの全社に広く展開した施策は、ジェンダーエクイティ推進を含む複数の領域を包含する内容に構成していたため、注力領域であるジェンダーエクイティ推進を展開する上でも、推進しているのはジェンダーエクイティだけではなく、「色々取り組んでいる中の一つにそれがある」という認識を形成する地盤になっていったと感じております。
(※D.E.&I.全社意識調査:差別や偏見、アンコンシャスバイアスなどについての設問があり、社員のD.E.&I.に関する意識や状況を可視化するために匿名で実施している調査。)
■ジェンダーエクイティ推進のカギ
- ジェンダーエクイティ推進は、多様性理解の1丁目1番地
先にも挙げた通りヤフーの社内の雰囲気は「属性に関わらず誰もがフラットな関係性である」と認識されてきました。しかし、D.E.&I.全社意識調査やエンゲージメント調査結果を分析していくと、たとえば役職希望者は女性の方が少ないなど、さまざまな項目で明らかな男女差がみられました。それまで女性役職者比率が低いのは「そもそも女性社員が少ないから」とだけ認識されていましたが、数値として可視化できたことで、認識が変わってきました。「フラットだと思い込んでいるからこその落とし穴」が潜んでおり、取り組むべき課題が沢山あることが見えてきました。
調査によって可視化できた課題にそって、女性役職者向けのメンタープログラムやヘルプシーキング研修、ターゲットを絞ってのワークショップなども実施していくことになったのですが、施策を展開する際に必ずお伝えしているのが、Mentor Forの池原さんの著書でご紹介いただいている内容になります。それは「管理職になることだけがパフォーマンス発揮ではないと思ってはいる。しかし、女性が昇進しづらいという現実は、女性に能力がないということではなく、組織ならではの課題があるという風にいえるかもしれない。 そうした中で、今後より活躍いただきたい社員への直接的な支援としてこうした施策を実施しているが、これらは、女性のためというだけではなく、働き方や働くうえでの価値観が多様化する中で、誰もが活躍できる組織にするための第一歩であると位置づけている」ということです。
しかし、特に抵抗がすごくあったのが「女性活躍」という言葉です。そのことを踏まえてヤフーでは、女性活躍推進ではなく、ジェンダーエクイティ推進という言葉に置き換えました。男女公正というだけでなく、性別にとらわれず、個々の状況にあわせて機会や手段を柔軟に考えていくというメッセージは、すんなりと受け入れられ、推進名称を変更してからは、「なぜ女性だけ」と言う質問は無くなりました。
- 先行部門とパイロット展開、点から広げる女性活躍推進領域
女性活躍推進領域 においては、全社で一気に始めるのではなく特定の組織から小規模にトライアルを実施し、対象範囲を徐々に拡大させていく方法を取りました。部門ごとに現状や課題感が大きく違うため、先行してトップの課題意識が強い部門や明らかに女性役職者が少ないといった構造的な課題を抱えているグループに対して実施し、効果を検証して改善を重ねていっています。ヤフーは少しボトムアップが強い組織であるからこそ、PDCAを愚直に回し部門の人を少しずつ巻き込みながら意識統制を図っていくことは、結果的に効果があったと感じています。
その中でも経営層には、統括本部長以上全員が「女性の健康検定」を受験する動きができました。
これは元々、有志PJのメンバーが受験していたもので、PJのスポンサー役員が自身も受検した後、経営会議で提案したことで実現しました。経営層全員が常に受検を経験できる状態を目指しており、新任で統括本部長に登用された人にも必ず受けてもらう仕組みができています。
女性役職者に対しては、念願でもあったメンタープログラムを開始し、第1期はメンターを10名、メンティーを15名、人事部門含めて話し合い、推薦方式で選出し実施しました。社外メンターとの対話や社内メンターの育成を通して、上位の女性役職者だからこそ、メンタリングのように安心して対話できる場所が必要であるという新たな課題も見えてきました。
女性リーダー層には、ヘルプシーキング研修を行い、仕事を抱え込まず、チームとして成果を出すための具体的な方法を学んでもらいました。また主に20歳後半の女性社員向けた、意識醸成ワークショップでは、中長期でライフキャリアを捉えるきっかけを提供しました。
■社内の変化、これからの目標
D.E.&I.そのものへの考え方も「やった方がいいこと」から「やらねばならないこと」に変化してきています。例えば有志PJや事務局に、事業と直結した相談が持ち込まれるようになったのは、社内の意識の変化の表れと捉えています。各部門で独自に行われている取り組みも見られるようになってきたことから、ブランドマネジメント部門が情報の集約に乗り出しました。D.E.&I.意識調査と並行して、全社で実施されているエンゲージメント調査(wevox)や役職者の多面評価(ピアフィードバック)などのデータも活用しながら、各施策の効果を引き続き確認していきたいと思っています。これからも「多様性は可能性だ」を信じ、ヤフーの社風に合わせたアプローチを、PDCAを愚直に回すことで見つけていきたいと思います。女性活躍やダイバーシティは、一社だけが取り組んでも世の中にある構造的な課題を解決することはできませんが、今後もいろんな企業の担当者のみなさんと一緒に励ましあいながら活動を続けていくことで、世の中を少しでも変えていけると嬉しいです。
ご講演の後半の質疑応答コーナーでは、本当に沢山のご質問をいただきました。Mentor Forの宮本も交えて、みなさんの質問・疑問に答えていただきました。今回はその一部をご紹介いたします。
Q1.社員有志ボランティアのPJの活動を継続できた理由はなんだと思いますか?
山田さん:あくまで有志のボランティアPJであり、特に組織化されていないからこそ、本業との兼ね合いでそのPJ活動を調整できる部分だと思います。柔軟な体制と発想でその取り組みが10年続いています。
宮本:「縛りすぎない、でもゆるすぎない」状態の中で、一人一人がボランティアでも当事者意識を持って取り組まれていることが、継続の理由」だったのですね。
Q2.ジェンダーエクイティ推進を、社内で大きな波にする際のポイントは何でしたか?
秋橋さん:特定の部門から小さく試したので、効果や成果はもちろん大きくありません。数字としての表れは見えづらいものの、部門の中でいいものだと実感いただき、トップの声として「これはよかった」と(プログラムの内容が)他部署へと広がっていくということがありました。
例えば、Mentor Forのマネジメント研修も、メンターの上長だけが受けた際に、とても良かったから全役職者に受けてもらうべきだという話が上がり、波及していきました。
宮本:なるほど。小さく試したところでの効果や成果が、口コミや人間関係を通して自然と興味を持ってもらえる状態になっていったというわけですね。
山田さん、秋橋さん、ありがとうございました。
【編集後記】
D.E.&I.やジェンダーエクイティ推進に力を入れる企業が増えている中、今回は実例をもとにした、本当に貴重なご講演でした。「社内の雰囲気はフラットである、でも本当にそうなのか?」を明らかにするために行なった全社意識調査が、結果、風穴を開けてくれたことが印象的でした。ヤフーの様々な施策がここまで社内に浸透しているのは、もちろん事務局の働きかける部分が大きいとは思いますが、何より「Whyが気になる社風」という会社のキャラクターをしっかりと掴み、どの施策においてもそこがクリアになっているからこそ社員の気持ちをガッチリと掴む推進ができているのだと感じました。
※文中のご登壇者様の肩書、社名、セミナー内容・名称は全てセミナー開催時のものです。