【イベントレポート】Mentor For ダイバーシティカンファレンス(後編)

【イベントレポート】Mentor For ダイバーシティカンファレンス(後編)

 

 

2023年11月28日。東京都内で「Mentor For ダイバーシティカンファレンス」が開催されました。前回のレポートでは、昭和女子大学 総長 / ダイバーシティ推進機構長 坂東 眞理子様による基調講演と、MPower Partners General Partner 関 美和様による講演の様子をお届けしました。

今回は、Mentor For導入企業3社による、パネルディスカッションの内容をお伝えします。

『各社の取り組みから考えるDE&I推進やキャリア支援に求められることとは?』をテーマに、各社それぞれの、リアルな課題と取り組みに関する議論が行われました。ぜひご覧ください。

ファシリテーター:株式会社Mentor For 取締役 宮本 桃子

 

パネリストのご紹介

住友ゴム工業株式会社 執行役員 人事総務本部長
井川 潔(いかわ・きよし)様

パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社 人事戦略部 部長(兼)採用部 部長
栃谷 恵里子(とちたに・えりこ)様

エーザイ株式会社 グローバルHRキャリアディベロップメント部長 兼 DE&I担当
新庄 浩子(しんじょう・ひろこ)様

 

各社の取り組みをご紹介

パネルディスカッションが始まると、まずは登壇者一人ひとりの自己紹介と共に、ダイバーシティ推進に関する各社の取り組みが紹介されました。

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──それではまず、井川様から自己紹介をお願いします。

井川様 住友ゴム工業の井川です。当社は、DUNLOP(ダンロップ)・FALKEN(ファルケン)をメインブランドとしたタイヤ事業と、テニス・ゴルフ製品などを扱うスポーツ事業を大きな柱としている会社でございます。

Mentor Forさんと歩みを共にした「メンター制度」の導入のほか、長時間労働の是正や役員目標管理(ESG関連テーマ設定義務化)、エグゼクティブコーチングなどを推進してきました。生産現場における女性作業者の働きやすい環境整備ということで、設備投資にも力を入れております。

タイヤという製品は非常に重量があるため、生産現場はどうしても男性が中心になりがちなところがあります。そこに対して、女性であっても作業がしやすくなるよう取り組んできました。また、管理職人事制度も年功序列からジョブ型へと変更し、抜擢登用が可能な「年齢のD&I」も推進しております。

──ありがとうございます。次に栃谷さん、お願いします。

栃谷様 パナソニック オートモーティブシステムズから参りました、栃谷です。当社は2022年4月に持株会社制へ移行し、各事業会社が独立して意思決定する体制となりました。

私は2021年10月からの2年間、パナソニック インダストリーの事業会社立ち上げを人事として担ってきました。今年の10月から、パナソニック オートモーティブシステムズにて現職となっております。本日お話させて頂く内容は、双方の会社での経験、どちらかというとパナソニック インダストリーで取り組んで来たことがベースとなるかと思いますのでご了承ください。

DEI推進の観点では、一人ひとりが主役、全社員が活躍できる会社の実現を目指して「女性リーダーの育成・登用」「カルチャー・マインド変革」「キャリア自律の後押し」「働く時間・場所の柔軟性」などの取り組みを進めてきました。社内において最大マイノリティーである女性の活躍はDEI推進の一歩目であると考え、取り組みました。

Mentor Forさんからご支援をいただき、「社外メンターサービス」「スポンサーシッププログラム」を行い、色々な成果を出せてきたのかなと思っております。

──ありがとうございました。では新庄さん、よろしくお願いします。

新庄様 エーザイの新庄と申します。私自身のキャリアとその中でチャレンジしてきたことを、ハイライトでお伝えさせていただきます。

私は2004年に新卒でエーザイに入社し、研究開発の仕事からキャリアをスタートさせました。人財開発本部への異動は2011年のことです。その時から現在までD&Iと共に歩んできました。

2020年に人財開発本部タレントディベロップメントの部長に着任した際には、Mentor Forさんの「女性組織長対応メンタープログラム」を導入し、私自身もメンティーとして参加させていただきました。

現在は女性に加えて、男性を含めた若手同士での社内のメンタリングプログラムなども検討が始まっています。

エーザイという会社でライフサイエンスを追求しつつも、「働く・仕事をする」を通じて、女性もシニアの方も、若手も障害を持つ方も、誰もが生まれてきた意味や意義を感じられる社会を作りたいと考えております。本日はよろしくお願いします。

 

取り組みによる会社や社員の変化

パネリストの自己紹介が終わると、1つめのテーマ「取り組みによる会社や社員の変化」を切り口にしたディスカッションが始まりました。

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──皆さんそれぞれ、女性活躍推進やD&I推進、キャリア支援に長く携ってきた立場にあると思います。取り組みを続ける中で、特に変化を感じられた事例はございますか?

井川様 当社の場合、社長の山本が、D&I推進にかなり力を注いでいます。それも経済上の合理的な理由ではなく、一人ひとりが本当の意味で活躍できる組織を作ろうとしている。その熱量の高さは、役員はもちろん部課長にも伝わっています。

特に若い世代に向けてはリソースもかけており、ミドル・シニア層に対しても会社が求めることを繰り返しメッセージしている。D&I推進にかける社長の覚悟が、全社的に伝わっているのかなと肌で感じています。

栃谷様 色々な観点から変化が生まれていると感じますが、本日はMentor Forさんとの取り組み「スポンサーシッププログラム」の事例をお伝えしたいと思います。管理職、マネージャークラスの女性比率を上げるための施策として実施してきました。

まずは社内から女性の部課長候補(スポンシー)を10人ほど推薦してもらい、その方々が自身の課題だと感じていることや強化したい領域などを私がヒアリング。それに見合った役員やビジネスユニット長(スポンサー)と紐づけ、約半年間の1on1を通じてメンタリングや具体的テーマ議論、人脈形成の支援等を実施頂くプログラムです。

スポンシー側で変化が起きることはもちろん、スポンサー側の意識や変化にも働きかけることができれば、という狙いがありました。

Mentor Forさんには半年間、役員等のスポンサーに対して、1on1の実施に向けた研修や中間フォロー、ロールプレイなども含めて支援していただきました。今年2年目の取り組みなのですが、好ましい変化が生まれていると感じています。

印象的だったのは、役員や経営陣が「知らず知らずのうちに、女性社員の機会を奪ってしまっていたようだ」と話していたことです。能力がある社員に対して、本来受講するべき幹部候補としての研修であったり海外で仕事をする経験等を積ませてあげることができていなかった。そうした気づきが生まれたことは、大きな変化だったと思っています。

新庄様 社内の変化もさまざまありますが、「エーザイはなぜ、D&Iを推進するのか?」の問いに関して、確固たるものが見えてきたことが1つの大きな変化です。

ダイバーシティ委員会を社内で立ち上げ、社員と役員によるディスカッションが始まったのが2011年のことです。会社側の女性活躍に対する認識や捉え方、女性側の意識を変えるための研修や制度面の整備を進めてきました。

2014年には「社内女性リーダープログラム」を立ち上げ、今日まで続けてきました。社内で女性同士の世代を超えたネットワークが生まれたり、自然と支え合う・励まし合うといった風土がこの10年を経て醸成されてきたのではと、そんな兆しを感じています。

「D&Iって当たり前のことなのに、なぜできないのだろう?」といった視点で、少しずつですが、役員を含めた会社全体で会話が生まれていますし、各事業部ごとの取り組みも始まっています。

 

苦労されていること / 課題となっていること

各社の取り組みが紹介されたあと、2つめのテーマである「苦労されていること / 課題となっていること」に議題は移りました。今回は3社に共通する製造現場、ものづくりの現場におけるダイバーシティ推進もキーワードです。

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──皆さんそれぞれ、工場や製造現場をお持ちだと思います。そこでの働き方や評価制度の仕組みなどでご苦労もあるのではと思うのですが、実際に課題などはいかがでしょう?

井川様 製造現場で働く社員の職場環境を考えると、やはり難しいと感じる場面もございます。会社で新たな方針を出した際には、私と社長とで全国の工場を回り、対話会を実施しているのですが、「男性の育児休暇を義務化」については厳しい意見がありました。

「義務化するのはいいけれど、現場のこと考えてくれているの?」という声があがりました。背景には、生産現場で働く労働人口の減少があると考えています。当社の工場は、24時間操業の現場であるため、育児休暇を義務化する代わりに人を増やさなければ仕事が回らないわけです。

また、女性活躍やD&Iについては、世代によって価値観のギャップが厳然としてあることも課題に受け止めています。5年、10年と年月が経てば解決されていくことかもしれませんが、現時点ではモヤモヤとした気持ちを抱えている方がマジョリティなのでは、というのが私の考えるところです。

栃谷様 私たちも地方に多くの製造拠点がありますので、井川さんの捉える課題感には共感できるところがたくさんありました。一方で私は、自分の中にもアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み、偏見)があると感じる出来事がありました。

ある時、社外の方から「御社の製品はそんなに重く、力仕事なのですか?」と聞かれたことがあるんですね。私が「小さなデバイスなので軽いんですよ」とお答えしたところ、「男性と女性で関係なく働ける環境なのに、なぜ女性活躍が進まないのでしょう?」と投げかけてくださったんです。

私もハッとしまして、それからは、DEIという発想の中で自分たちも働いているんだということを現場でも認識してもらえるよう、ポスターを作ったり標語の募集をしたりと、社内に浸透させるための施策を続けてきました。

新庄様 お二人がお話されていた課題に加え、当社では自分に対して自信が持てず、自らの可能性を狭めてしまう女性社員がまだまだ多いことも課題だと捉えています。

一方で会社側に目を向けると、女性活躍やダイバーシティの重要性に気づき、理解しようという動きがあるものの、組織内に軋轢や歪みが生まれたりとスムーズには進まない現状もあります。

乗り越えるべき必要な時期だと捉えていますので、その先にある、平等よりも公平を目指す「エクイティ」の概念の理解・浸透に向けて引き続き取り組んでいきたいと考えています。

 

これからのキャリア支援の在り方

パネルディスカッションも終盤。3つめのテーマ、「これからのキャリア支援の在り方」について、個々の経験や考えをもとにした議論が始まりました。

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──では最後に、キャリア支援のあり方について、皆さんのお考えを伺いたいと思います。また井川さんからお願いしてもよろしいでしょうか?

井川様 私はこれまで、色々な経験をさせていただく機会に恵まれました。これは当時の上司が、私のキャリアを気にかけてくれていたことが大きいと思っています。人事からスタートした私は、ビジネスについて右も左もわからないと悩む時期がありました。そこで上司に相談をしたところ、スポーツ事業部へ異動できるよう後押ししてくれたんです。

自分がやりたいこと、挑戦したいことを上司に相談できる環境があり、その上司もまた十分な対話力を有していることで、一人ひとりが活躍できる組織になると考えています。

当社では再現性を持たせるために「360度フィードバック」をシステムとして導入し、自分のリーダーシップの癖や弱みと向き合える機会を提供しています。運用面では課題も残っておりガバナンスを効かせる必要性は感じていますが、いずれにしても会社としては、対話力のある管理者層を増やしていくことが重要だと考えています。

栃谷様 私はまず、会社がしっかりと説明責任を果たすことが最初かなと思っています。会社のミッションやビジョン、戦略を繰り返し伝え、その実現に向けたさまざまな機会を社員の誰もがアクセスできるようにしておく。その上で一人ひとりが自己選択し、会社側もそれを支援できるような体制作りをしておくことが大切だと感じています。

一人ひとりが自己内省を進めながら、自ら選択できるような環境が整っていれば、最終的にそれがキャリア支援に繋がっていくと思うんです。チャレンジの大きさ、タイミングは一人ひとり異なりますので、できるかぎり寄り添うことを目標としながら、人事としてサポートしていければと思っています。

新庄様 今のお話に厳しい側面があるとすれば、個々に望む選択肢がある一方、望んだものの思い通りにキャリアを実現できない人が一定数現れる、そういう時代も来ていると感じています。

世の中の変化が、これからもっと加速していく時に、自分が本当に、最後の最後まで大事にしたいことを平時から考え、問いかけ続けていく。そういった仕組みを設け、社内や風土の中で醸成することが1つの支援方法になると考えています。

また、社員に対して寄り添うばかりでなく、それぞれが自律的なキャリアを築くべく、正々堂々と戦っていくことが何より大切なのかなと思います。

会社としても、公募型でチャレンジできる制度を広げつつ、思い通りにいくかどうかわからない環境で「強い意志を持ち続けられる社員」を育てる必要がある。人事側にとっても覚悟が問われる取り組みになりますが、そういったマインドを醸成させていくことが今後は必要になると思っています。

 

Mentor For代表 池原のあいさつ

以上をもって、ダイバーシティカンファレンスはすべての講演・パネルディスカッションを終え、Mentor For代表 池原のあいさつを残すのみとなりました。

池原からは、創業期に小さく始まった「メンターとのマッチングサービス」が、少しずつ社会に変化を起こせるような事業に育ちつつあると話がありました。

「創業期には女性だけだったメンターも、今では男性メンターも増えております。サービスとしても、社外メンターとのマッチングだけでなく、社内にメンターを育成するような取り組みを含め、着実に企業様のD&I推進をサポートできる体制が整ってきています」と池原。

そこで起きているのは、個と個のマッチングであり、知識や経験、考え方や価値観の異なる者同士が出会い生み出されていく、大きな変化だということでした。

池原 メンタリングとはキャリアの1on1です。それを社外の人とじっくり話せる機会を提供するのが、Mentor Forの取り組みです。「管理職になるってどういうこと?」「自信を持つためにどうすればいいの?」「自分は中長期で何を成し遂げたい?」。そういったことを社外のロールモデルに伴走してもらいながら実現させていく。これは小さな変化でありながら、大きなインパクトを生む取り組みだと考えています。社会を変えようとする皆様のパートナーとなれるよう活動を続けて参りますので、今後もどうぞよろしくお願いいたします。

以上で、ダイバーシティカンファレンスは終了となりました。

このレポートが、皆様の女性活躍推進、D&I推進におけるヒントになれば幸いです。ここまでご覧いただきありがとうございました。